桃色

『桃色

 物心ついてから、私は桃色の洋服を着たことがない。親も着せなかったし、自分でもこの色を選んだことはない。
 子供の時分、うちでは桃色を卑しむ空気があった。
 客の呉れた日本人形が、桃色の腰巻をしているというだけで、父は不機嫌になった。
「これは取り替えたほうがいいな」
 手荒いしぐさで、たたみの上にほうり出した。
 祖母や母になると、もっと徹底していた。
「嫌な色だねえ」
「カフェの女給さんみたい」
 下品。ふしだら。二人の目線はこう囁き合っていた。
「桃色は敵だ」
 というところがあった。
 桃色を怖れ憎むことで、嫁姑が団結していた。
 物堅い月給取りの家である。
 一家稼ぎ手である父が、「桃色」のほうへ傾くことは、家庭の平和にとって由々しき一大事なのであろう。
 女たちが必要以上に桃色を卑しみ、父のほうも、それに同調する姿勢を見せることで、家長の威厳を保っていた。
 おかげで、私は今でも桃色に対してうしろめたい気分になる。長い間、馬鹿にしていて相済みません、というところもある。 
 戦後、桃色はピンクと名を変えたが、子供の頃にしみついた偏見はまだ抜けないのである。』 

向田邦子著 夜中の薔薇 より

もし、今まだ向田さんが生きていたなら
男女問わずピンク色の洋服を選べる今の時代をどう思うのでしょう…
ちなみに私はピンク色、好きな色のひとつです。
かわいいではなくかっこいいピンクの着こなし、を目指しています。